春香の意思

9/10
前へ
/10ページ
次へ
 死んだ娘宛てに、これからも手紙が来るなんて嫌に決まってる。受け入れられるわけない。  焦って咄嗟に言ってしまった事を後悔した。理由も言い訳も出て来なかった。  ただ、お母さんを困らせただけだった。    それなのに、お母さんは私が口を閉じて下を向いていたら、  笑って、わかったわ。と言ってくれた。  いいの? と聞いても、  ただ、ええ。と笑って返してくれた。  気付いたら私はお母さんに抱き着いて、ありがとうと言っていた。  そんな私を、お母さんは優しく両手で包んでくれた。  何も聞かずに我儘を聞いてくれたことが、本当に嬉しかった。      2016年 7月 15日  桜としての生活と、春香としての2重生活が始まった。  最初は混乱するかもと心配だったんだけど、一君の手紙が来るのは月に2回から3回のペース。  その時だけ春香に戻ればいいだけだったから、意外と割り切って両立する事が出来た。  家で療養中の私と違って、一君は毎日ちゃんと学校に行ってるから、書く内容に困らないみたい。楽しそうに送ってる学校生活を羨ましいと思いつつ、私は一君の手紙を読むのが楽しみだった。  一君には一君の世界が有って、その世界には私が居る。    それが、どれだけ当時の私を救ってくれたことだろうか、     
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加