第2章 加奈の場合。

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 客の上田は、上客である。加奈の父親ぐらいの年で先月から数えて4回目の来店だ。やっと加奈にも指名客がついて嬉しいのは嘘ではなかった。なにせ最近のキャバクラは新宿のぼったくり店の横行や、違法客引きの取り締まりで、イメージが低下して空前の苦戦を強いられているのだ。加えてマイナンバー制度の導入で、個人の収入が一括してわかるようになったせいで、いわゆる秘密の副業ができなくなったから、女の子も次々とやめていった。加奈のようなアイドルっぽいルックスと愛嬌は貴重な人材だ 「今日は、学校どうだったの、麗奈(れな)?」上田は訊いた。加奈は店では麗奈なのである。 「うん、メールしたとおり。午前中は眠くて行けなかった」加奈は、毎日昼のメールを欠かさない。 「だめだなあ、それじゃ本末転倒だぞ。学校には行きなさい」(あなたには言われたくない)加奈はそう思いながら「はーい、明日は頑張って起きる」と言った。(毎日、ちゃんと行ってるよ、バーカ。だらしない振りしているだけ)     *  斎藤ゆかりは、生協の配達・営業をフルタイムで行っている。そして土日にはパチンコ屋でアルバイトだ。休日はない。それでも月の月収は母子家庭手当をもらっても30万がやっとであった。 夫はアルコール依存からおかしくなって、暴力をふるった。警察沙汰やら救急車を呼んだりと散々な目にあって10年前に離婚した。養育費は1年で途絶えた。それからは娘の加奈を連れて、ここ原田市のUR団地に移り住んだ。団地は高齢化を迎え、古くはなっていたが、内装はきれいだし家賃も安く環境もよかった。以来、いわゆる女手ひとつで、加奈を育ててきた。加奈はそんな母の苦労も見てきていたので、優等生を目指した。公立高校には推薦で合格した。     
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