第3章 バカ夫。

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 また、車種もバリエーションがある。普通のビートルから、バスの形をしたタイプ2、セダンが基本形のタイプ3、スポーツ車のような流線型が美しいカルマン・ギア。とくにタイプ2のバスはヴィンテージになると4,500万はする人気車種である。     *  一目惚れだった。1人目の娘が生まれ、妻の瑠奈(るな)がいよいよ1人の女性から母親になっていったそのころ雄一は悶々とした日々を送っていた。たしかに赤ん坊は可愛い。しかし 赤ん坊は妻の愛を全面的に奪い取っていった。よく世間の旦那衆が浮気するのもこの時期が多い。雄一は或る日、エロサイトを見るついでに若いころ乗っていたワーゲンのサイトを見ると、真っ赤な1965年式のヴィンテージが売りに出されているのを知った。一目惚れしてしまったのである。来る日も来る日もその車のことが頭から離れない。早くしないと他の誰かに買われてしまう、そう思うと胸が締め付けられた。  雄一は気がつくと横浜・港北にある空冷フォルクスワーゲン専門のショップ「DOPE」にいた。(やはり美しい・・・写真よりずっとよく見える・・・)雄一は真っ赤な1965年式のヴィンテージが「ここから、私を出して」と叫んでいるように見えた。     * 「ほらさ、おれパチンコも競馬もやらないじゃん。酒は人並みだしさ、ねえ、考えてくんないかな・・・」雄一の説得は毎日に及んだ。     
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