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「ヨウちゃんの耳の後ろのにおいが好き」「あたし、ヨウちゃんが気持ちよくなれるなら何だってしちゃう」「ヨウちゃんがいつもあたしのポケットの中に小さくなっていてくれたらな」舞葉は、たくさん愛の言葉を囁いた。洋平も舞葉の愛に応えるべく、真剣に彼女を愛した。心も肉体も2人は愛に満ち溢れていた。
舞葉は人材派遣会社に無事就職が決まった。洋平は執筆で生きていくことを決めていた。
このころからであろうか。2人の間はボタンをかけ違えたようにギクシャクした。というのも、洋平は作家志望とはいえフリーターであり、どこか引け目を感じていたからだ。
「なあ、舞葉。このまま二人で愛し合っても、俺には君を幸せにする自信がないよ」
「なにそれ? 別れようってこと?」舞葉は早口で訊いた。
「まあ、な。俺はしばらく本を書いて生きていくって決めたんだ。いろんなものを削ぎ落として、捨てていって自分を追い詰めないと、究極のものが書けない気がしてさ」洋平は酒の勢いを借りて言葉を振り絞った。
「ひどい、捨てられるってこと? あたしは今まで通りヨウちゃんを支えていくつもりだよ、一生愛し合おうって誓ったじゃん!」舞葉は泣きそうな声で言った。
「とにかく、俺には舞葉を愛する権利がないんだ」
「あたしにはあるわ。お金? そんなのあたしが何とかする」
「いや、そういうことじゃなく・・・1人になりたいんだ」洋平は言った。
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