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舞葉はあきらめなかった。週末の休日には洋平のアパートに来て、家事を手伝った。洋平も舞葉をあきらめることができなかった。週末くらいは筆を休めて舞葉と愛を交わしたかった。ただやはり、経済的な面や社会的地位を考えると洋平の中に羞恥心が芽生え、プライドも交際の邪魔をした。(やはり、生温い自分が許せない・・・)洋平はいつもそう思いずるずると5年が過ぎようとしていた。
*
「ヨウちゃん、話があるの」
そう切り出したのは今度は舞葉だった。
「いつもお世話してる派遣さんのエンジニアで、私を気にいってくれる人がいて・・・」
「好きな人ができた?」洋平は訊いた。
「まだわかんない」
「良かったじゃん。これからは婚活も含めて考えないと」洋平は強がった。
「ばか!ヨウちゃんは何とも思わないの」
「前に言ったはずだよ、俺には権利がないって」
「もう、知らない」舞葉は泣きながら洋平のもとを去っていった。
*
洋平は別れた最初は執筆とアルバイトに没頭した。時間があればなるべく図書館で本を読み漁った。しかし、いざとなると男は弱い。だんだんと夜に、決まって酒を飲み始めた。アパートで1人、寂しさを紛らわせたり、思い出に浸ったりした。酔うと思うのは舞葉のことばかりだった。いまごろ他の男に抱かれていると思うと胸が張り裂けそうになる。
「もしもし」
「・・・ヨウちゃん?」舞葉の声がいとおしい。
「おれ、やっぱり間違っていたのかな、舞葉が忘れられない」
「・・・ゴメン、いまはヨウちゃんのことは考えられない」
「どうして?」洋平は訊いた。
「別れようっていったのはヨウちゃんよ」
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