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「そうだな。電話してゴメン、」
「いま、幸せかい?」洋平は訊いた。
「・・・相手には奥さんも子供もいた。しかもまだ赤ちゃん」舞葉はため息をつきながら言った。
「おれが殴りに行ってやろうか?」
「やめてよ。そっとしてほしい・・・あの人の赤ちゃんが欲しいの」舞葉は言った。
洋平は気が狂いそうになった。
「もう、これ以上話すと、まずいな、お互い」
洋平はそう言って電話を切った。脳みそが無性にアルコールを欲した。
(俺はなにやってんだろう? 職にもつかず、好きなことだけやって、文学賞も取れない。それでも舞葉を必要としている・・・)洋平はたまらなく自分が嫌になった。
ウィスキーのニッカ黒を瓶ごと呷った。
「自分で退路を断ったのは、誰だ、ああおれだよ」洋平はひとりごちた。
*
その日から、洋平は家に引きこもった。アルバイトは体調が悪い、としばらく休ませてもらった。原稿には全く手がつけられなくなった。何を考えても舞葉のことに行きついた。そして自分の不甲斐なさを恨めしく思った。夜には酒を飲みながらひたすらCDを聴いた。
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