第1章 洋平君、来客。

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酒が止まらなくなった。朝からコンビニに行っては、1日分のアルコールを買い込んだ。食事はほとんど何も取らず、トイレで吐いてばかりいた。吐くものが無くなると、血反吐や胃液が便器を汚した。1日中飲んでは、寝るを繰り返す。そのうちにトイレに行くのも面倒くさくなった。仕方なくトイレに立ち上がるために焼酎を呷った。     *  何日続いただろうか、洋平の携帯が久しぶりに音を立てて鳴った。舞葉からの着信だ。 「もしもし」洋平はうつぶせのまま電話に出た。 「・・・ヨウちゃん」 「ん?」 「・・・あのさ、」舞葉は泣きながら言い出しにくそうに言葉をつなげた。 「・・・できちゃったみたい」 「・・・ふーん、よかったじゃん」洋平は布団で寝ながら力を振り絞って答えた。 「ちがうよ」舞葉は返す。 「あなたの子か彼の子かわかんないの」 洋平は仰向けになって天に叫んだ。 「オーマイガッ」     *   洋平は久しぶりに原田の街に出た。家にいるとそのまま眠って死んでしまうと思ったからだ。行きつけのソウルバーで、つぎつぎにグラスを重ねていった。シーバスリーガル12年。スコッチの苦みと甘みが舌の上で混ざり合い、喉元を刺激して流れていった。五臓六腑にしみわたるなんともいえない落ち着く感覚。頭上ではMarvin Gaye(マービン・ゲイ)の What’s Going On のライブ盤がここちよく耳に入ってくる。 (締め切りにさえ出せない無冠の物書き・・・)洋平は自分でおかしくなって笑ってしまった。 何杯飲んだだろう? 外の空気が吸いたくなった。     *     
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