綱吉公の誤算

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 「そんでもってそのカラスをとっ捕まえろ、ということになったわけか?」大二郎はおかしくて笑って訊いた。  「そうさ。畏れ多くも将軍様の頭に糞をするとは、何事じゃってんで、そりゃもう犬公方様も、ひったてい、と大激怒なさった。」  「そいで?」大二郎は言った。  「どうもこうもない、側用人総出でカラス探しじゃ。当のカラスなんてとうにどっかに飛んで行ってしもうた。」勝右衛門は言った。  「それでも下手人探しか?」大二郎は笑いが止まらない。  「仕方ない。そのあたりにいたカラスを無理やりとっ捕まえて犯人に仕立て上げて『殿 このカラスが下手人で候』って差し出したわけだ。」勝右衛門は答えた。  「捕まったカラスもとんだとばっちりだ、かわいそうに。そんでどこに島流しかい?」  「新島じゃと。」勝右衛門は静かに言った。  「わっはっは、カラスごときに我々陸尺武士をあてがうってわけか、犬公方様もとうとう痴れものになってしもうたわい」大二郎は笑った。  「まったく鳥籠に引き戸がついた乗物をわざわざ作らせて運べとな、どうかしておる。」 勝右衛門は言った。  「仕方ねえ、三枚肩(三人持ち)で運ぶしかねえだろう」大二郎は法被の帯を引きしめた。     
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