綱吉公の誤算 第2幕

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このとき江戸から呼ばれた水戸の藤田徳昭(のりあき)、通称藤田紋太夫は機会があれば光圀を排斥し、現藩主綱条に気に入られようと奔走していた。犬の毛皮の件をこれはとばかりに乱心だと訴え、光圀が禁止になった鷹狩りも行っていることを柳沢に密告した。ほかにもいろいろと乱心気味なことを触れまわった。 最終的に綱吉は老中・阿部正武を呼んだ。 「光圀公を江戸に呼んで頭の中を確かめるべし!」綱吉は阿部に命じた。 「ははあ」阿部は取り急ぎ水戸へ江戸登城を命じた。    * 元禄7年3月水戸の光圀公は江戸へやってきた。 「立派だ・・」阿部正武は最初の印象でそう思った。 光圀が江戸城三の丸で儒学『大学』を見事に講じている。綱吉もこの姿を見てさすがに感銘した。じつに見事な講釈だった。そして講釈の後は能を舞った。じつに見事な身のこなしで、優美。とても頭がおかしくなったとは思えない。 「久しぶりじゃのう、綱吉殿、息災かのう」光圀が声をかける。 「ははあ」綱吉は平伏して答えた。 「近頃、わしは痴れ者としてさわがれているとなあ、かっかっか」光圀は笑った。 「いや、今日の黄門さまのご講釈、実に御見事。綱吉安心した次第、何かの間違いかと」 綱吉は平伏したまま答えた。 「うむ。今度、水戸江戸屋敷でも家臣を集めて舞を舞おうと思っている」光圀はそう言って江戸城を去った。  (藤井紋太夫のやつめ、乱心なのはやつのほうでは)綱吉は柳沢や藤井を疑い始めた。
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