綱吉公の誤算

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綱吉公の誤算

 時は江戸、元禄のころでしょうか。五代将軍・徳川綱吉のころのお話。今では生類憐みの令を出し、江戸庶民を困らせた将軍として有名であります。  「何だって? カラスを島流し?」幕府目付直属の駕篭之者・三原大二郎は耳を疑った。  「ああ。先ほど駕籠頭の滝藤様からのお達しがあった」同じく駕篭之者・結城勝右衛門はうんざりした口調で言った。  「だっておめえ、最近の犬公方様は生き物を大切にしろって話じゃねえか、それがカラスがお咎めくらって島流しとはどういうこったい、流されるには人間様ではないのか?」 大二郎は気色ばんで腰を上げた。  「いや、なんでも公方様がそれはそれはお怒りで」勝右衛門はかぶりを振った。  「どういうこったい?」大二郎は勝右衛門に近寄った。  「いやな、犬公方殿が上野・寛永寺に出かけようとお城をお出ましになったとたん、空からカラスがやってきて」勝右衛門が言った途端、  「合点、カラスの野郎が犬公方様の頭に糞をかけたって始末か」大二郎は好奇な表情で会話を遮った。  「そのとおりだ」勝右衛門は右手で頭を掻いた。     
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