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道すがら、先輩は僕に何も言わなかった。
頭にきすぎて、口をききたくもないのだろう。あるいは、呆れてものが言えないのか。 どちらにしても、先輩は、僕を軽蔑しきっているに違いない。
それでも、先方の会社が近づくと、僕の方が何か打ち合わせをしておかねば、と焦りだした。
だが、先輩は、一言だけ、こう言った。
「お前は黙ってろ」
先輩の作戦は、およそ作戦と呼べるようなものではなかった。
ひたすら謝るだけ。あの先輩が、額を床に擦りつけるようにして、ただひたすらに。
その姿に、僕は自分のしたことの重大さに、改めて気づかされた。
だが、そのシンプルな作戦が功を奏した。先方は、確認しなかったこちらも悪いといえば悪い、そう言って折れてくれたのだ。
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