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手術室の扉を開け、いやな赤い光をくぐった。
ぽっかりとまるい明かりの下、施術台にヒロトは横たわっていた。なんだか浮き上がって見える。
彼は目を閉じて、青白いままぴくりともしてない。上半身ははだかで、腰から下は青いシートが掛けられている。
ぼくの目は、おかしなシートにくぎ付けになった。
呆然とつぶやく。
「ヒロト」
しばらくして唇から、ふいに言葉がこぼれ落ちた。
「人魚は、どこにいる」
だれから教えられたのか、ずっと気になっていた。
わからないのは当然だったんだ。
教えられたのではなく、最初から知っていたんだ。
ぼくという生き物に、最初から刻み込まれていたんだ。
父の声がする。
「だからやめておけと言ったんだ」
それ以外の気配もする。どこかからぼくたちを見ているようで、視線は不快な針となって刺さる。
天井からの光がぐるぐるとまわり始めたみたいに、ぼくの意識が混濁してくる。
悪い夢の中にいるって信じたかった。
みじめなぼくのままでもいいから、頼むからこれだけはかんちがいでいてと、必死に願った。
景色がぐにゃぐにゃしてくる。曖昧な汚い色彩の固まり、叔父さんの失敗作の絵みたいになっていく。
ぼくは両足を踏ん張ってもがいた。ヒロトを、ちゃんとした彼を探そうとした。でも、もうどうすることもできなかった。
ぬかるみにはまったように、意識は沈む。
なすすべなく、なにかの手に落ちていく。
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