23人が本棚に入れています
本棚に追加
/16ページ
失うものもないなって思いもあったから、ここまで来れた気がする。地上のどこでも生きていけそうな自己肯定感にあふれてる。でも自分の家庭ができたから、じきに蛮勇も失くなるかな。
叔父といちばん下の姉にはある日偶然再会した。ふたりとも芸術家として活動をしていた。姉は結婚する気はないそうだ。したいようにすればいいさ。
ヒロトのことを忘れかけると必ず、思い出させる出来事が起きる。
その日、子供を連れて博物館に来ていた。
そこに、クラゲのイミテーションがあった。
僕が初めてクラゲを見れたのは、中学生になってからだ。図書室の片隅でほこりをかぶってた海の生き物の図鑑が、求めていたものを見せてくれた。あの絵のとおりの生き物だったが、クラゲには色んな種類がいるらしかった。
図鑑はそのまま盗んだ。どうせ忘れられたものだから、盗まれたことさえだれも気づかない。
海に月と書いてクラゲ。
でも、目の前のイミテーションの解説には『久羅下』とある。
「ちがうじゃないか」
僕は思わずつぶやいて、子供に不思議がられた。ちなみに、クラゲというのはとうに絶滅したそうだ。ヒロトはそこまで言わなかった。
まあ、それはクラゲだけの問題ではないが。
今でも時々不安に駆られる。
なにか、大事なことを、考えてはいけないようにさせられている気がする。
でも、だれが、なぜそんなことをするというのか。
自らの努力で望みを叶え、居たい場所にいるんだ。愛する家族もいて幸せなんだ。
それを今更ひっくり返されたくない。
僕は不安を考えないよう努める。
あのさびれた故郷の記憶を宝とし、この都会の空気も愛す。
問題ないはずだ。
ないはずなんだ。
最後に、ヒロトと再会した話をして終わろう。
最初のコメントを投稿しよう!