僕たちが居る場所について

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 失うものもないなって思いもあったから、ここまで来れた気がする。地上のどこでも生きていけそうな自己肯定感にあふれてる。でも自分の家庭ができたから、じきに蛮勇も失くなるかな。  叔父といちばん下の姉にはある日偶然再会した。ふたりとも芸術家として活動をしていた。姉は結婚する気はないそうだ。したいようにすればいいさ。  ヒロトのことを忘れかけると必ず、思い出させる出来事が起きる。  その日、子供を連れて博物館に来ていた。  そこに、クラゲのイミテーションがあった。  僕が初めてクラゲを見れたのは、中学生になってからだ。図書室の片隅でほこりをかぶってた海の生き物の図鑑が、求めていたものを見せてくれた。あの絵のとおりの生き物だったが、クラゲには色んな種類がいるらしかった。  図鑑はそのまま盗んだ。どうせ忘れられたものだから、盗まれたことさえだれも気づかない。  海に月と書いてクラゲ。  でも、目の前のイミテーションの解説には『久羅下』とある。 「ちがうじゃないか」  僕は思わずつぶやいて、子供に不思議がられた。ちなみに、クラゲというのはとうに絶滅したそうだ。ヒロトはそこまで言わなかった。  まあ、それはクラゲだけの問題ではないが。  今でも時々不安に駆られる。  なにか、大事なことを、考えてはいけないようにさせられている気がする。  でも、だれが、なぜそんなことをするというのか。  自らの努力で望みを叶え、居たい場所にいるんだ。愛する家族もいて幸せなんだ。  それを今更ひっくり返されたくない。  僕は不安を考えないよう努める。 あのさびれた故郷の記憶を宝とし、この都会の空気も愛す。  問題ないはずだ。  ないはずなんだ。  最後に、ヒロトと再会した話をして終わろう。
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