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轢かれる。誰もが思った。
田舎娘の哀れな死。そんな悲しい現実の、何と空空しいことか。
ユノは、足を一回ふみ鳴らした。
猛り狂った馬達は、嘘のようにつんのめって停止した。
荷台から、女の人が降り立った。黒いヴェールで、顔の右半分を覆い隠していた。
「驚かせてごめんなさいね、急に飛び出したもの。貴女」
「私も驚きました。でも、昔から馬に轢かれたことはないんです。私こそすみませんでした」
女の人は、ユノをじっと見つめて言った。
「貴女、アカデミーの生徒ね。今日はどうしたの?」
「悪者がいるのでお休みになりました。せっかくなのでウィンドウショッピングをしているところです」
「あらそうなの。何か欲しいものはあって?」
「そのワンピースは可愛いと思いました。でも買えなかったんです」
「貴女お名前は?」
「イシノモリ・ユノです。名字が先になります」
「そう。ユノさん。ちょっと付き合ってもらえるかしら?私もそのお店に用があるの」
女の人は、店に入っていってしまった。
ユノは、後を追って扉を開いた。
店内は、新品の布の匂いと色取り取りに飾り立てられ、さながら絵本の中に入り込んだようだった。
ユノは、目を皿にして店内を見回した。
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