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僕は目を閉じて、微笑みながら彼の言葉に耳を傾ける。
「アンタとやりたい事、いっぱいあんだ。
海に行きたいし、花火だって見たい」
─……わぁ、それ僕もやりたいなぁ。
君と一緒に花火も見たい。
「2人で古本屋に行って昔の漫画を先生に教えてもらいたい」
─……僕の年齢を馬鹿にしたな、キミ。
「2人で寒いね、って言いながらコンビニで肉まん買って帰りたい」
─……確かにそれやりたかったね。
「……今年の春、俺は先生と桜を見たかったんだ……っ!」
彼の悲痛な叫びは、僕の心に痛いほど突き刺さる。
大粒の涙が、男らしい彼の頬を濡らす。
僕は彼が僕の前で泣いたのを3ヶ月経った今初めて見た。
「……おめでとう、ってアンタに言ってもらいたかった……っ」
ぽたぽたと零れ落ちる彼の瞳に手を伸ばしたけれど、僕の手は彼には届かない。
もう二度と、僕は彼に触れられない。
彼も僕に触れられない。
「なんで死んだんだよっ……!」
彼は僕の声を聞くことが出来ない。
僕は勝手に聞けるけど。
残された方が、意外と出来ないことって多いもんだね。
だけどね、僕がキミを愛した過去と時間と想いは嘘じゃないから。
今キミが僕の墓石の前で涙を流しているこの時間、僕も今君の目の前で涙を流しているんだよ。
あぁ、情けないな。
キミより歳上で、余裕がなくちゃいけないのに。
『……っ……ぼくも……っ、キミとっ、一緒に……いたいよ……っ』
愛する者の悲しみは、自分の死より辛くて、悲しい。
僕もキミと、歩みたい人生があったんだよ。
だから僕は、言ったじゃないか。
『愛は、悲しいから嫌だよ』
って。
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