第0章 喪失の冬

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第0章 喪失の冬

 ――キングスゲート暦258年、冬。 「逃げろ! 早く早くッ!」  枯れた森林に雪が舞っていた。夜の闇のなかを舞う雪は白く輝いて見える。  ここの木々は枯れているだけでなく、黒く焦げたように腐敗している。  この森は死んでいるのだ。 「急げって! 奴らに追いつかれるぞッ!」  騎士の一人がそう叫んだ。  ガシャガシャという鎧の揺れる音とハァハァという荒れた呼吸音が響く。 「もう、だめだ……ッ! あ――」  ガシャンッ!  鎧が地面に叩きつけられる音に一同が振り返る。  隊員の一人が大きく張った大木の根に躓いていた。  甲冑で長い間走り回った身体は既に限界を迎えていた。  鎧に描かれた『ユノマルス先遣隊』の紋章が泥で汚れて見えた。 「いッ――」 「アレン、立て!」
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