第0章 喪失の冬

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 倒れ、アレンと呼ばれた男の背後。  陰った木々の間、白く輝いた粉雪が舞うなかを『黒い瘴気』がウヨウヨと蠢いた。 「た、隊長! 助け――」  黒い闇のなかから触手のように伸びた手がアレンの脚を掴んだ。 「……」  隊長と呼ばれた男はアレンから目を逸らした。 「あああああああああああッ!」  そのままアレンは闇の中へと引っ張られた。  グチョ――  ベリ――  バリ――  それは肉や骨がねじれ噛み砕かれ引き裂かれる音だった。 「た、た、す……けッ――――」  うっすらとした闇のなかで繰り広げられる惨劇を想像しながら、ユノマルス先遣隊の隊員らはおびえた眼差しを捧げた。  アレになるのは自分だったかもしれない。
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