二話

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『後二日は泊り込みになりそうですけどね』 悪いが、宜しく頼むと告げたのは数日前だった。システムの検証にも問題がなく、満足して頷く私に、その男は会議室の端で小さく手をあげて応えた。 申し訳ありませんでした、とシステムを請け負っている会社の社長が深々と頭を下げている。我関せずといった風情で見ない振りをして鼻の頭を掻いている男の姿が対称的だった。 飯でもどうだ?と連絡を入れたのは、部長から経費の件で了承を貰った後だった。男は電話の向こうで不思議そうに「それは構いませんが、僕なんか誘ってもメリットありませんよ」と可笑しそうに呟いていた。 「気楽な居酒屋ぐらいが良いなぁ」 何を食べたい、と問いかけると男はそんな風に応える。意外にも、きちんとした細身のスーツ姿だった。面白そうに眺める私に「嫌いなんですけどね。こういう格好」直ぐにスーツ姿の事だと気付き笑いながら言う。反応の良い奴は嫌いじゃない。
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