story 1 ~ 序章

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「今度遊びに行くよ。 庄司にも久しぶりに会いたいし。」 最近本家にまた顔を出すようになった景は 努めて明るくそう言ってくれた。 意識はほぼ無いが 指を握ると たまに緩く反応があり 声をかけると こめかみがかすかに動いたりはする。 庄司は父の弟分で  俺の代わりに実家でずっと家政婦と共に 父の面倒を見てくれている。 定期的に医者と看護師も診察に訪れる。 「坊ちゃんは若についていてあげて下さい。」と 庄司は悩む俺に言ってくれた。 元を一生支えていくと心に誓っていたが 父の事が気がかりだった。 おかげで俺は家を出る事が出来  今こうして柏木組次期三代目と共に 一緒に働けている。  景も元も俺の事情をもちろんよく把握している。 景は優しい微笑みを俺に向けて 大丈夫。とでもいうように頷く。 この人は口を開くととてもぞんざいで  怒ると般若のように怖い。 普段はボーっとしているのに頭がよく、 そしてとても慈悲深い。 男であっても肉親から受ける母性を感じさせる。 この人がうちの組に入り 俺の兄弟分だったらな・・と何度思った事だろう。 俺は愛など信じない。 永遠の愛などこの世に無いと思っている。 この親を持ってしてどうやったら そんなバカげた事を思える。 愚の骨頂だ。 それでも何事にも例外はある。と 景と元は唯一俺に思わせてくれる。 二人の歩みをずっと横で見てきたのだ。 信じられるものがそこだけにある。 この二人を守る為なら何でもしよう。 俺はずっとそう思い続け 今もそう思っている。 それが例え気に食わない奴と 付き合わなくちゃいけなくてもだ。 また あの希少動物の顔を思い出し 腹の中にじわっとイライラが上がってくる。 頭を振って そいつの顔を意識から追い出し 急いで景にコーヒーをおかわりした。
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