story 1 ~ 序章

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俺は刑事になった。 向いているとは到底思えない。 喧嘩はからきしダメだし体も小さい。 頭の回転も遅く鈍感だ。 真壁先輩のように留美を死に追いやった 犯人を捕まえようと思っているわけでもない。 犯人ならたくさん捕まった。 誰が決定打を出したのか 出さなかったのかわからないだけだ。 刑事だった真壁先輩はみるみる窶れていった。 焦燥感がにじみ出ていて とても優秀な人なのに あちこちで問題を起こしていた。 そして突然辞めた。 一度も笑顔を見た事がなかった人は 最後寂しそうな笑みを浮かべて去って行った。 きっと疲れてしまったのだ。 今 その理由がわかってから そうだったのだろうと思う。 刑事は法の上でしか人を裁けない。 限界があるのだ。 俺が刑事になった理由は 少しでも留美の様な犠牲者が 出ないようにしたかったからだ。 薬を憎み 薬を扱う連中を憎む。 それで命を奪われる人間を 1人でもいいから助けたい。 真壁先輩と再会してその気持ちは 更に強くなった。 出来ることをやれと言われた事を思い出し マル暴への異動を願い出た。 それでもやはり限界は感じる。 無くなりはしない。捕まえても捕まえても ボウフラのように犯罪者は湧いて出てくる。 今の真壁先輩は別人だ。 よく笑いよく怒り その表情はコロコロと変わる。 三代目さんがそうしたんだと 坂田先輩が嬉しそうに言っていた。 血の繋がらない弟さんが そこまで親身に力になってくれるなんて 素敵な話だ。 感動して高嶺にそう言ったら またお前はバカか。と言っているであろう 呆れ顔を向けられた。 なんでだろう。 俺はあの人が考えている事が よくわからない。 ついていけていない。 いつも向けられる呆れ顔にだんだん 慣れてきてしまっている自分がいた。
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