story 1 ~ 序章

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「ちょっと悪い。」 携帯を指差し 景と元に断りを入れ 俺は店の外に出た。 これから店に来るはずの人間からの 電話は 大概ロクな事がない。 「はい。高嶺です。」 謝る声が聞こえてくるのを待ち構えたが 何も聞こえない。 なんだ。間違い電話か? しばらく待ったが 何も聞こえない。 間違ってポケットの中で気付かず リダイヤルされてしまったのかもしれない。 アイツならやりそうだ。 付き合いきれない。 電話を切ろうとしたその時 何かか細い声が聞こえてきた。 「もしもし。矢野さん?」 ジージーと雑音が鳴る中 蚊の鳴くような声で 「・・・無理です。・・無理。。」と聞こえた。 何がだ。 とにかく今どこにいるのかを聞き出すと もうすぐ目の前だった。 何をしている。 全くその行動が読めない。 矢野は今から犯人の供述を 景に報告に来るはずだった。 それが目と鼻の先で 足を止め 俺に電話をしてきている。 やっぱりわからない。 それでもこのまま放っておく事も出来ない。 随分と親切な人間になったものだ。 普段の俺ならきっぱり切り捨てる。 時間の無駄だからだ。 だが矢野はバカかもしれないが 大事な自分の先輩が待っていて すっぽかすようなことはしない。 短い付き合いで 相変わらず理解不能では あったが 人間性だけは理解した。 景の両親の件でコイツは本当に親身に働き その言動は俺のそれと違い また苛々沸々とさせられたが コイツがコツコツ見つけてきた情報は 当時身動きが取りにくかった俺を容易にし 真実までたどり着く手助けになったと 思っている所もある。 「今行きますから。そこにいて下さい。 わかりましたね。」 俺が少し強めにそう言うと 消え入りそうな声で はい。。 と返事が聞こえた。
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