story 1 ~ 序章

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電話で言われた辺りに行ってみると 誰も居ない小さな公園のブランコに ただでさえ小さい体を丸め 矢野はちょこんと座っていた。 小学生か。 俺の足音が聞こえたのか顔を上げた 矢野の目と鼻は真っ赤だった。 泣いてたのか? いい年した大の男がいじめられたガキのように 公園でしくしく泣く姿は正直いただけない。 「なんで店に来ないんですか。 景さん待ってます。」 泣き顔には触れず 突き放すように そう言うと 矢野はしばらく黙っていたが そっと震える手で俺に手帳を突き出した。 普段聞き込みで使っているそれは カバーが禿げ ボロボロの様相だ。 「なんですか。」 受け取らない俺を見て矢野は 唇を噛み締め 手帳を握りしめる。 「・・け・・刑事は・・ 聞いたこと 調べたことを隈なく 報告しなくてはなりません。 ・・手帳に書いたことは全てです。 じ・・自分は重要じゃないと 思い込んで 端折った中に 有益な情報があ・・あるかもしれないから・・」 矢野の言う事は分かる。 違う視点から物を見た時 違う世界が見える事はよくある事だ。 一度矢野の手帳を覗いたが びっしりと文字が書いてあり 普段何喋ってるのか意味不明なコイツが 手帳を手に報告を始めると淀みなく 的確に話し出すのに驚いた。 「・・お・・俺は。出来る事が少ないから。 だから・・報告だけはきちんとしようと いつも思ってます。 今日も坂田先輩の代わりに し・・しっかり 報告しないと・・で・・でも。。」 出来ません。。と矢野はポトンと涙を零した。
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