story 1 ~ 序章

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「矢野さん。」 ・・・はい。。と小さく返事が聞こえる。 俺を見上げ ブランコから立ち上がり 手帳を受け取ろうと手を出した。 俺は矢野の目の前で 犯人の供述が書いてある ページをビリビリと破り 細かくちぎって 近くに設置されていたゴミ箱に投げ入れる。 矢野の大きな涙に濡れた瞳がびっくりして さらにでかくなり 顔から落ちそうな勢いだ。 バカでもきっとコイツは分かっている。 俺がそんなの言わなければいいだけだと 思っているだろうと。 きっとそう言われるだろうと。 それでも分かっていて出来ない。 刑事としてそれは出来ない。 けれど景にこんな話を聞かせたくない どうしよう。。 と泣いているのだ。 やれる事をやれと景に言われ コイツはそれをひたすら忠実に実行している。 だからこうやって苦しんでいる。 「なんだこの手帳は。柏木組にとって 不利益な情報が書いてある。 よし。破って捨ててしまえ。 どこの誰だか知らないが バカな奴だ。 これだけの秘密事項が書いてある 大事なモノを落とすなんて。」 。。アホほど棒読みだ。 俺は俳優には向いていないらしい。 そんなこと考えたこともないが。 とそう思う自分に自分で苦笑する。 本当に最近俺はらしくない。 俺はポンと矢野の足元に手帳を捨てた。 矢野は捨てられた手帳をじっと見てから ゆっくり俺に顔を向けた。 顔をくしゃっと歪め 泣き笑いの表情を浮かべる。 「行きますよ。」 俺は踵を返し 店に向かう為に足を踏み出した。 急いで手帳を拾い パタパタと付いてくる足音を確認する。 無性に煙草が吸いたい。 元にどうした。と言われるだろうが 今はプライベートだと言い捨てて 思い切り吸ってやる。 もう景の店は俺の目に見えていた。
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