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「それに現時点犯罪を犯したわけではないので 警察は手が出せないと坂田さんは言っています。 なのでうちの組で張って 行動を把握することにしました。」 高嶺は冷静にそう報告した。 その言葉に元は頷き すぐに顔をしかめると 「それにしてもあの場に仁さんと高嶺が居て 本当によかった。でないと・・・」 そうだ。 もし中本が殺人犯ならば  矢野が五人の被害者と同じ目に あっていたかもしれない。 仁の話では来た時からすぐに矢野を気に入り 指名したと聞いている。 それは正直計算していなかった。 対象がまた俺の話をシュウに聞くだろうと思い 店に来たら シュウの横に矢野がついて 会話の中から情報を得る手筈になっていた。 それがいきなりご指名だ。 斎藤が死に 男の斡旋場所が無くなり もしかしたらこういう系統の店で 男を漁っていたのか。。 本当に危なかった。 目の前で無表情にコーヒーを飲む高嶺を伺い見る。 本当は嫌だったろうし。 この間 こんなに可愛くしちゃってどうするんだ。 なんて思った事も逆に大変申し訳なくなる。 「高嶺。。悪かったな。」 謝ると高嶺は首を振り 「楓がやると言った事なので。」と 極めて冷静にそう答える。 だが内心の苛立ちがカップを持つ手に見え隠れし 俺は思わず 「コーヒーお替りするか?」と 一杯1500円もするコーヒーを もう一杯奢ってやることにした。 高嶺はニヤリと笑みを浮かべ 緩やかに首を振った。 「頂きたいところですが今日はこれから ちょっと出なければいけないので。」 あれ?もう今日は仕事無いってさっき 元が言ってなかったか? 「なんだ。デートか?」 高嶺はまた かぶりを振り 「業者と大事な打ち合わせがあるので。」 ニヤリと不敵な笑みを浮かべると カップの残りのコーヒーをグッと飲み干し 「元。明日は朝から本家だから。 俺は向こうで合流する。 山辺さんも仁さんも一緒だ。」と告げた。 そして俺に向き直り 「景さん。ご馳走様でした。」と頭を下げ さっと風のように店を出て行った。 「・・なんだあれ。」 ぽかんと口を開けて 去っていったドアを 見ている俺に元は目を向け カップを置き 「完璧に矢野さん包囲網を敷くんだって。」 と楽しそうな声音でそう答えた。
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