決める

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いつもと違う帰り道に楓は戸惑いを 隠そうとしなかった。 「・・高嶺さん。。どこ行くんですか?」 ニヤリと笑い「内緒です。」と 車をそのまま走らせる。 答える気が無いのがわかったのが 楓は不満そうに黙りこくり 小さく助手席で縮こまっていた。 目の前に商業施設が入る大きな マンションが見える。 俺はそのいくつもある駐車場のひとつの 入口に車を乗り入れ ずっと先へ進み 住居者専用駐車場の 一番奥にある駐車スペースに車を停めた。 へ。。と固まる楓を車から引っ張り出し 目の前のエレベーターに乗り込んだ。 すぐに階数表示板の上にある 鍵穴に鍵を差し込んでグッと回す。 するとエレベーターはそのまますっと 最上階まで俺たちを運んで行った。 ポンと鳴って扉があいたと同時に 楓の手を取り廊下へ出る。 楓は ずっと え。。え。。と言っている。 が、構わず引きずるように一番奥にある 重厚なブラウンのドア前まで行き 鍵を差し込むとすっとその重そうなドアは 音も立てずに 開いた。 「た。。高嶺さん。。あの。。」 戸惑う楓の背中を押し 中に入る。 目の前がガラス張りの広いリビング中央に向け ぽんっと背中を少し強く押すと とんとんとん。。と何歩か歩き 楓はあんぐりと口を開け立ち尽くした。 しばらく ぐるぐると辺りを見渡した後 夜景が広がる 一面絵画のような情景に 背を向けゆっくり俺に向き直る。 「え。。あの。。え?。。」 その綺麗な夜景を反射する 大きな瞳を見つめる。 この瞳は俺のものだ。 その鼻もその唇もその口元の可愛いほくろも。 「楓。ここで一緒に住みましょう。」 へ。。。。 楓は俺の言葉を身体に入れ 首を傾げてしばらく考え込むと そのまま完全にフリーズ状態となった。 ああ。思考が止まってしまったか。 これでは先に進まない。 楓の両肩をそっと掴み 少し揺さぶってみる。 楓は ハッと俺を見て 急にいやいやと頭を振りだした。 「で・・でも・・・。」と いつもの独り舞台に入りかけるのを 右手のみで制し黙らせる。 楓は ふっと口を閉ざした。 今日は俺の独り舞台を見てもらう番だ。
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