決める

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「楓ちゃん。紅茶入れ直そうか?」 髭のマスターさんが心配してくれている。 また迷惑かけてしまった。 「またお騒がせしてすいませんでした。。 あの。フレーバーコーヒーってありますか?」 「うん。うちは豆も売ってるからね。 バニラだけどいい?」 「はい。。お願いします。」 ふう。やっぱり少し心臓がドキドキしてる。 あとチクチク。 嫉妬してチクッとするのとは違う。 ちょっと傷ついたんだ。きっと。 でも。大丈夫。 今までより全然気分がいい。 母さんと離婚するとなったら 今度はお金を一銭も払わないって言い出すなんて。 自分の親だけど本当に呆れてしまった。 もういいと思った。 必死に守ろうとしたけど。。 もういい。やるだけやったんだ。 ん。。あれ? 高そうなスーツを着て 薄いグレーの サングラスをかけた大きな人が 外からこっちを見てる。 いつも優しく包み込むような瞳で 俺を見守ってくれている。 ああ。大好きな笑顔だ。 俺もつい釣られて笑ってしまういつもの笑顔。 心配して来てくれてたんだ。。 忙しいのに。 ずっと見ていた背中が見える。 遠ざかっていくあの背中がとても温かいのを 俺は知ってる。 分かりあえなかった頃も 分かりあえた今も。 あの人はずっと温かい。 今日帰ったら あの背中にぴったり くっついて眠りたい。 あの太い両腕に抱えてもらうのもいいな。 だって。俺の居場所だから。 高嶺さんが作ってくれたはじめての俺の居場所。 「はい。どうぞ。」 「ありがとうございます。」 美味しい。 高嶺さんが教えてくれた。 コーヒーが美味しいなんて 思ったこと一度もなかったのに。。 あ。さっきそういえば 煙草咥えてた。 帰ったら 歩き煙草はダメです。って言わなくちゃ。 きっとあの人は顔をしかめて 「すいません。」って言う。 早く。早く。その顔が見たい。 そんなに遅くならないって今 LINEをくれた。 声をかけず LINEにしてくれる。 さっきまでの事には触れもせずに。 頑張ったのはお前だ。って言われた気がした。 そのさりげない優しさがとても好きだ。 楓はコーヒーを急いで飲み干し お金を置いて マスターに手を振ると 小走りに 店を後にした。
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