story 1 ~ 序章

2/16
5919人が本棚に入れています
本棚に追加
/802ページ
「なんで電話しちゃいけないの?」 裸でシーツに包まる女はこちらに顔を向け そう聞いてきた。 その前に何でと聞くなと言わなかったか。 心の中でそう言葉を投げつけ ピースに火をつける。 甘い香りが立ち上り ゆらゆらと ベッドサイドランプの淡い光を揺らした。 ここの所 気持ちに余裕が 無くなっているのが分かる。 神経をすり減らしているせいか 腹の底がジリジリと苛立っている。 俺らしくもない。 意味不明な感情は無駄だ。 特に自分においては。 女を抱いてみれば少しは落ち着くかと 思ったが さらに苛立ちを感じただけだった。 俺はシャツを着てネクタイを締める。 女の鞄から携帯を取り出し ポンと放り投げる。 「俺の番号を消せ。二度と顔を見せるな。」 煙草を消し 部屋を出る。 フロントで金を払い ホテルのロビーを抜け 外に出ると 冷たい夜の雨が降っていた。 ついてない。 プライベートは酒を飲むので運転はしない。 とりあえずタクシーを拾うか。 またタバコに火をつける。 ふう。と吐き出すと 煙の匂いが雨の匂いと混じり合う。 その時 携帯が鳴った。 あの女か。 携帯を取り出すと 俺を更にイラつかせる 名前が表示されている。 はぁ。とため息をつき 通話ボタンを押す。 「はい。高嶺です。」 電話の向こうから あ。。あの。。すいません。。と まだ何も言っていないのに謝る声がする。 「・・・矢野さん。どうかしましたか。」
/802ページ

最初のコメントを投稿しよう!