惑う

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「ヤクザではありませんが 今一緒に事業関連の仕事をさせている 人間で久保というのがいます。 ソイツをそちらにやります。」 俺の言葉が意外だったのか  仁は戸惑いの表情を浮かべる。 「仕事はかなり出来ます。 本人も新しい土地でやってみるのは チャレンジだと言っているので。 来週一週間俺も一緒にそちらに行って 立ち上げの手伝いはします。 その後は久保を中心に事業を回してください。 任せておけば仁さんは組の事に専念できる筈です。 人手が足りなければうちから人を回しますし 報告は久保から俺に上げさせ 定期的に俺もそちらに行って状況把握はします。 多分半年もしないうちに成果は出るでしょう。」 矢継ぎ早にそう言うと仁はぽかりと口を開け すぐにクックックと笑い出した。 「・・さすがだな。高嶺。」 俺はさも当然とばかりに頷き いつの間にか隣に来ていた 次期三代目に声をかける。 「元。それでいいな?」 元はコクリと頷き  「・・仁さん。すいません。 やっぱり 高嶺は譲れません。 俺にとって誰よりも大事な兄弟です。」 と頭を下げた。 仁は煙草を灰皿に投げ捨てると 「元は恵まれてるな。 景ちゃんに高嶺に。楓ちゃんも坂田さんも オヤジも鬼頭さんも久家さんも・・・ お前がトップになる為にどれだけの人が お前のために動いてくれてるのか。 絶対に忘れるな。」 そう言って元の瞳をするどい視線で睨みつける。 「絶対に忘れるなよ。」 元は はい。と頷き もう一度頭を垂れた。 「さて。じゃあ俺はもう行く。 元。旨かったよ。 今度みんなでうちに来た時には お返しに旨い肉でも食わすから。」と言い 「高嶺。来週よろしくな。」と 手を振って夜のネオン街へすっと消えて行った。 ありがとうございました。 俺は心の中で仁にお礼を言う。 楓がそっと横に来て俺の手を握ってくれる。 その手の生暖かさを感じ  グッと込みあがってきていたものを 必死に俺は抑え込んだ。
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