始まり

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今日も空振りだった。 矢野は被害者の一人のグループに関係する 若い男からなんとか話を聞き出すと 政友会という暴力団の一人が そのグループに近づき 最近パーティーを開いているという情報を得た。 かなりド派手なパーティーらしく 綺麗な女性も沢山いて飲み食いはタダだ。 「二、三回行ったけど ライブバー貸切で DJが皿回して大盛り上がりでさ。」 被害者もそのパーティーの常連だったらしい。 「なんかお宝が手に入るってアイツ言ってて。 最高のオマケも付いてくるんだって。 俺は結局それがなんだったのか わかんなかったんだけどさ。」 その若い男はそう言って もういい?と その場を立ち去った。 薬かな。 タダで飲み食いさせて人を集め薬を捌く。 最近の暴力団のターゲットは 若い子達で 甘い餌を撒いて薬漬けにした後 金が払えなくなった人間に高利貸しで 金を貸し付け 身ぐるみ剥ぐ。 親、兄弟への取り立てはもとより 女性はその後 組のソープなどに沈められ 男性の中には臓器まで提供させられる 人がいると聞いた事がある。 その暴力団員が誰なのかを突き止めようと グループの溜まり場付近をずっと 張っているのだが 今日も誰も来なかった。 事件の後 パーティーが開かれた形跡もない。 一旦署に戻り 自分のデスクで 坂田先輩への報告内容をまとめようと 手帳を開いていると コトンとカップに入ったコーヒーが 目の前に置かれた。 ふと顔を上げると 優しい笑みを浮かべた 葛西先輩が立っている。 「あ。すいません!」 いいよ。と手を振り 「どうした?」と聞いてくる。 葛西先輩は二つ上の先輩で 坂田先輩と違い その風貌は全くマル暴らしくない。 少し長めの髪に 綺麗な顔立ちで 女性警官たちが コソコソ噂するくらいの 美男子だ。 もちろん俺がそれに気づく訳はなく 全部坂田先輩からの受け売りだ。 いつも優しく 話を聞いてくれ よく他人を苛々させる事が多い俺に 一度も怒った事も イラついた態度を 見せた事も無い。
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