刻む

17/18
5935人が本棚に入れています
本棚に追加
/802ページ
辛い夜に 何度も肌を重ね 俺を 俺自身をこれでもかと 楓の身体に刻みつける。 全身を喰らい尽くし 楓の身体から 怯えや 苦しみが少しずつ消えていく。 愛情と欲に包まれて 楓は俺の腕の中で 子供のような表情を浮かべ すっと眠りに落ちていった。 そして 今 こうやって前を向き 立ち上がろうとしている。 仕方がない。 「・・わかりました。」 腹の中は 全然納得していないが そう答えると ありがとうございます。と楓は微笑んだ。 だが 絶対に 譲れない事はある。 「うちのマンションじゃなくて グリーンマイルでやりましょう。 景さんには言っておきます。」 この二人だけの場所は何としてでも死守したい。 楓は目をパチパチさせながら 首を傾げ しばらく考えていたが コクンと頷いた。 「真壁先輩がいいなら。。」 なんで喫茶店で鍋やるんだ。 お前んちでいいじゃねえか。 と 文句を言う景の顔が浮かぶが  だったら遠慮しろと言ってやる。 それでなくても 楓の手料理を 他の奴に食わせるなんて。 それだけで 俺の我慢の限界は既に超えている。 その上 ここに人を入れるなど。 冗談じゃない。 きっと景はマンションに来たがるだろう。 前から呼べよ。と言われていた。 元もニヤニヤ笑いながら 「俺も行きたい。」と言っていた。 アイツは ただ物珍しいものが見たいだけだ。 この俺が 他人と一緒に住める訳が 無いと思っているから 来たらきっと あちこち覗き出すだろう。 絶対に嫌だ。 あまりガタガタ言われたら 対抗策を打ち出す。 手持ちには何枚もカードがある。 握っている弱みをあれやこれやと考えていると 楓は 俺を見つめたまま くすっと笑って 「高嶺さん。」と俺を呼んだ。 ん。と目だけで応えると 楓はその大きな瞳に決意を映し 「今から署に行ってきます。」と告げた。
/802ページ

最初のコメントを投稿しよう!