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いや。それはまだ早すぎる。 まだ身体も心も癒えていないはずだ。 話をする事で また全てを思い出し  楓が辛い思いをするのは 目に見えている。 「楓。もう少し時間を置いて・・・」 俺がそう言おうとするのを 遮るように 首を振り 「大丈夫です。。中本は殺人犯かもしれません。 俺がきちんと話せば 今まで手が出せなかったことも 調べる事が出来るし。。 連続殺人事件の方も進展があるかもしれない。 ちゃんと。。ちゃんと出来る事をやります。」 強い信念を感じさせる言葉だった。 何度も思う。腹を決めた楓は強い。 もうテコでも動かない。 この楓を止めるすべを 俺は持っていなかった。 俺は 結局黙って頷いた。 また俺は繰り返す。 潜入捜査などさせなければよかったと思った。 喧嘩してでも楓を止めるべきだったと。 でも果たして本当に止められただろうか。 いや。きっと止められはしない。 傷つき 苦しみ それでも楓は今までも これからも ゆっくり絶対に真実に近づいていく。 俺はこの楓を見守り 一緒に歩いていくしかないのだ。 「楓。」 俺の呼ぶ声にコクンと首を傾げる様が愛おしい。 俺は ずっとこれからも この名前を呼び続ける。 「すき焼き 楽しみにしています。」 楓は嬉しそうに笑顔を見せ 頷くと その口元を少し歪め 「ちゃんと真壁先輩から許可貰って下さい。。 あんまり意地悪い事は。ダメですよ。」 腹の中を読まれていたか。 「それは約束できません。」 ソッポを向いてそう言うと 楓はきゅっと可愛く俺を睨みつけ 背伸びをして 俺の首に腕を回し いってらっしゃい。と ちゅっと頬にキスをした。
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