ムーンライトセレナーデ

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「高嶺。お前が出てる時に 今日の会議 場所が変わったって さっき事務所に電話があったぞ。」 元はそう言いホテルの部屋番号を俺に伝えた。 元が取ってきた仕事で 初めての顧客だったがなかなか用心深いらしく 前回の初会合もホテルのスウィートルームだった。 こうやってホテルを使うこと自体は珍しくない。 セキュリティも万全だし何より交通の便が良く 周りの目を気にすることなく話も出来る。 「俺。今日 本家だったよな。」 元の言葉に頭のスケジュール帳を捲り ああ。と答えると 「じゃあ現地集合だな。 お前は今日鬼頭さんの所だろう。」 珍しくしっかりとスケジュールを把握している。 「どういう風の吹き回しだ。」 俺の言葉に元は少し焦った顔を浮かべるが 「景に怒られて。ほら。。この間の 仁さんの事があって。。」 ああ。なるほど。 確かに後から話を聞いた景は 契約書の件でかなり元をとっちめていた。 「普段から任せっぱなしだからだって 前にも言ったじゃねえか。 いくら高嶺が優秀だからってちゃんとしろ!」 般若まではいってなかったがものすごい剣幕で 元はしゅん。。と小さくなっていた。 その姿が子供の頃 景に怒られていた様子と重なり 思わず笑ったことを思い出す。 じゃあな。と言って元は龍を伴い 事務所を出て行った。 楓は明後日から本格的に仕事に復帰する。 坂田に言われしばらく仕事を休んでいた。 手首の包帯は取れ傷跡はまだ痛々しいが 少しずつだが日に日に明るさも取り戻し  頑張って前を向こうとしているのが見てとれる。 だが 大丈夫。と言っても 人間の心と身体はアンバランスだ。 今でも楓はなかなか寝れなかったり 夜中に起きてしまう事がある。 ふと気づくと小さく身体を 震わせている事もあった。 子供の頃のトラウマは一生ものだと聞く。 思い出してしまった楓はこれからも 苦しんでいくのか。。 ただ 抱きしめてやる事しか出来ないが それでも楓はありがとう。と言ってくれる。 その苦しみからすべて開放してやりたい。 一緒に居て楽しい事を楓に たくさん植え付けていってやりたい。 その苦しみが少しでも薄まるように。
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