生きる

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しばらく高嶺の言葉を反芻していた剛は 強張った表情を変えもせず歩き出す。 「剛!」 楓の声に ビクッと足を止め 剛はゆっくり振り返る。 下を向いて「あーあ。」と ため息をつき 顔を上げた時には 少し晴れ晴れとした表情になり 口元にニヤリと笑みを浮かべた。 「俺。諦めたわけじゃないから。 もうちょっと大人になってからにする。 必ず 振り向かせるからね。高嶺さん。」 剛はウィンクを投げつけて 走ってその場を去っていった。 何を言われたのか理解が出来ず 高嶺は呆れてぽかんと口を開けながら その背中を見送る。 二人でその場に立ち尽くした。 楓は苦笑を浮かべぽつりと口にする。 「さっきの高嶺さん 。。 以前の高嶺さんでしたね。。」 分かり合えなかった頃 よくあんな風に言葉を突き刺した。 冷たい視線を寄越し よくため息をつかれていた事を思い出す。 さっき高嶺が言っていた 生きる意味とは何だろう。 わからないけれど 今 自分が生きている意味は ずっとこの人が与え続けてくれている。 分かり合えなかった頃はさっきの様に 冷たかった。 でもその冷たい言葉の中にも 必ず思いやりがある人だった。 さっきだって。。 本当に剛を切り捨てるなら あんな風に 声をかけてはやらないだろう。 諭すのはわからせたいという想いがあるからだ。 この人の根底はいつも優しい。 冷たい態度にもいつも優しさが見え隠れする。 そんな高嶺だから好きになったのだ。 見上げるとそこにある バツの悪そうな高嶺の顔に クスッと また笑いを漏らす。 高嶺は はぁ。と深いため息をついた。 冷たい視線は向けられなくなったが ため息は相変わらずかな。。 「中に入りましょうか。」 と楓を中に誘導し 先に店内に送り込むと その瞬間 高嶺はすっと後ろへ するどい視線を向ける。 何かを感じ取ったのか 辺りをざっと見渡すと 黙って 店の中へ入っていった。
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