乱される

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俺の言葉を聞いて ふっと息を呑み 楓が身を硬直させたのを感じながら言葉を続ける。 「はい・・出来れば車で送ってやって下さい。 そうですね。・・はい。 万が一があるので。・・はい。 ・・尾行されないように。・・はい。では。」 俺がつけられていた事は無いはずだ。 普段から気を配り誰かに視線を向けられれば 俺が気づかない筈はない。 仕事柄そこは抜け目が無い自負があるし 普段 ほぼ行動を共にしている元も 何も言わないことを考えると まず 俺ではなかった。 辺りを見渡すと 車を停められる場所もなく すぐに楓をこの場から離れさせれば 後をつけてくることは出来ないだろう。 それにしても一体誰だ。 グッと腹に怒りが湧き その瞬間 サッと違和感が消えた。 俺が気づいた事が分かり 立ち去ったか。 パトカーのサイレンが近づいてくる。 これか。 楓にしか聞こえない声で 「先にマンションに帰ってます。」 そう言って 顔が見たいのを我慢し 背中を向けたまま 俺はその場から歩き出した。 歩いている最中にパトカーに乗る 坂田とすれ違う。 小さく視線をお互い寄越し  俺はそのまま走って打ち合わせの時 停めていた車の駐車場へ向かった。 また楓が狙われているのか。 誰だ。 向けられた視線はどこかしら 嫉妬を含む 刺すような鋭さで 俺の胸にじわっと不安が持ち上がる。 坂田に言って聞き込みは止めさせよう。 一人で行動させてはならない。 今日帰ったらそう言って これだけは譲らないつもりだった。 もうあんな思いはさせたくない。 もう二度と楓に傷ついてほしくない。 景の時と違い 刑事を極道が警護する 訳にはいかないのだ。 それでも。 俺はエンジンをかけ車を走り出させた。 念の為不必要に遠回りをし 普段使わないダミーの駐車場へ車を停め マンションへ入る。 絶対に楓は守る。 何があっても絶対に。
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