乱される

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坂田に送ってもらった楓は用心深く 一番遠いビルの入り口を入り しばらく商業施設の店を眺めた後 誰もいないのを確かめて そっとエレベーターに乗り 最上階のこの家まで帰ってきた。 玄関に迎えに出た俺の顔を見るなり  肩をカクンと下ろし安堵の息を吐く。 そっと抱きしめると その身体は小さく震えていた。 やはり。 また思い出させてしまったのか。 身体を離し それでも楓は気丈に 「・・大丈夫です。。」と笑みを作る。 その表情が痛々しい。 その不安に揺れる瞳を見つめ 「いいんです。怖い時は怖がっていいですから。 我慢するのが一番いけません。」 俺がそう言うと 楓は少し目尻に涙を溜め 小さく頷き 抱きついてきた。 怖かっただろう。 まだ完全に立ち直っている訳ではない。 自分で自分に必死に言い聞かせ 前を向いているのだ。 なのに 何故 楓ばかりがこんな目に。 中本が逮捕され 全く楓自身心当たりもないらしい。 気のせいならばいいのだが さすがに二回目ともなると それでは済まされない。 「坂田さんには連絡しました。 もう一人で行動するのは駄目です。いいですね?」 俺の言葉に しばらく考えこんだが 諦めて コクンと頷いた。 どんどんその顔が青ざめていく。 小さい身体が もっと小さく縮こまり 立っているのがやっとのように見える。
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