喜び

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「・・あれ? 楓ちゃん?」 カウンターから年配の男性が 楓を見て驚きの声を上げる。 楓はぺこりと頭を下げ 「お久しぶりです。。」と微笑んだ。 中からエプロンをした女性も出てきて 「まあまあ。。楓ちゃん!」と 嬉しそうに近寄ってくる。 その親しみある声音に ここの人達と 随分と仲が良かったんだな。と伺える。 女性が 俺を見て 「どうしたの?楓ちゃん。イケメン連れて。。」 と問いかけると 楓は恥ずかしそうに 「ラーメン食べたくなっちゃって。。 無理言って連れてきてもらいました。」と言う。 まあ。遠いのに。。と頭を下げられ 急いで 俺も頭を下げる。 「いつもの席どうぞ。」と言われ 店奥のテーブルに向かい合わせで座ると 楓はほっと息を吐き 「ワガママ言ってすいません。。」と ペコリ頭を下げる。が 上げた顔は笑顔だ。 俺はかぶりを振り 小さい声で 「嬉しそうですね。」と聞くと 楓はコクンと頷き 話しだした。 「大学は家を出て この近くの古い アパートに居たんです。。 ほとんど自炊してましたけど たまにここで食べるのが楽しみで。。 すごく良くしてもらいましたし。」 そうか。 その間は家の事からは離れられていたのか。 俺の心の声が聞こえたかのように コクンと頷くと 「・・だから留美の事も 分からなかったんですけど。。」 少し哀しい表情になり下を向く。 「・・楓。」とそっと声をかけると あ。と顔を上げ 大丈夫です。と少し微笑んだ。 「署でラーメンの話をしていて 思い出して。。高嶺さんに食べさせたら どんな顔するかな。。って思って。」 俺がいつも思う事を楓も思ってくれたのか。 相手が喜ぶだろうか どんな反応を するだろうかと考え 行動するのは楽しい。 目の前の楓も楽しみにしているようだった。 が急に不安に顔を曇らせ あ。でも。。 今まで高嶺さんが食べてたのとは 全然違うと思うので。。 どうしよう。。口に合わなかったら 無理しないで下さい。。えーと。。 普通で。。んーー。。やっぱりやめた方が よかったかな。。えーと。。 またワタワタと慌て始める楓を 「大丈夫です。」と遮ると ハッと口をつぐみ 照れた表情ではにかんだ。
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