温もり

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「また張り込んでるそうですね。」 矢野は高嶺の言葉に ぴくっと身体を強張らせる。 小さく頷くと 目の前の烏龍茶を一口飲んだ。 「例の変態事件ですか?」 あえて少しふざけた口調で聞いてやる。 今日はめでたい席なのだ。 本当は関わりたくなかったので ずっと黙っていたが 景の嬉しそうな顔を眺めながら 笑顔になる矢野を見て少し反省した。 コイツも景が幸せになる事を望んでいる。 だからあれだけ頑張ってくれたのだ。 俺の口調を意外に思ったのか その大きな瞳をパチパチとさせたが コクンと頷いた。 「でも成果ありません。 もう二週間になるんですけど。。」 そう言ってまた烏龍茶を飲む。 相変わらず意味不明だ。 二週間張り付いて成果がないなら 何故違う手を打たない。 また苛々が腹の底から込み上げてくる。 「他に出来る事はないんですか? 当てもなくただ突っ立ってたって 時間の無駄でしょう。」 ついまたキツイ言葉が口から出る。 矢野はそうなんですけど。。と下を向いた。 その姿がまた俺の苛立ちを増長させる。 酒が入ったせいもあったかもしれない。 「矢野さん。あなたがただそうやって 突っ立ってる間に また人が死ぬかも しれないとは思わないんですか? 何か出来たかもしれないと 思ってからじゃ遅いんだ。」 俺の言葉に矢野は硬直する。 あ。と小さい抗議の声が聴こえて 振り向くと 俺たちの会話が耳に入ったのか 景は明らかにマズイ。。といった顔をしていた。
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