喜び

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俺も笑い出す。 何をやってるんだ。 こんな風にがっついて飯を食うなど。 楽しそうに笑い転げている楓を前に また自分が変わっていることに気づく。 コイツはどんどん俺を変える。 知らない事を知りたいと思い 分からない事を分かりたいと思う。 たかだが飯の喰い方ひとつでこうも違う。 昔なら絶対に試してみたりなどしない。 今までの俺こそ独りよがりだったのか。 出来る事だけを信じ やってきた事だけを信じ 知らない世界を知ろうともしなかったのか。 「楓には色々教わりますね。」 楓は俺の言葉を吸収し 首を傾げながらしばらく考えていると あの。。と口を開く。 「俺が教わってるんですよ?。。 高嶺さんは俺とは違うから。。 。。なんでも知っているし。。 高嶺さんはいつも違う景色を見せてくれます。 いつも喜ばせて貰ってて。 だから今日は俺が。。って思ったんですけど。。」 そう言って また あ。。と口を押える。 あ。。でもこういうのはそういうんじゃ ないですよね。。 でも。。本当に。。本当に嬉しいです。 。。こうやって俺の真似してくれるのとか。。 すごく嬉しくて。。あ。。でも 違うか。。 無理はしなくていいので。。えっと。。えっと。。 そうか。こうやって違う者同士が 影響を与え合って変わっていき 分かり合っていくのか。 楓もよく俺がする事に目を丸くしている。 それでも俺より柔軟で なんでも試してみて驚いたり 喜んだり 時には無理です。。と首を振ったり。 目の前のラーメンに手を付ける。 ラーメン自体は中華料理店で食ったことはあるが こういう店に入って食べるのも初めてだ。 食べた事が無いものを食べようと思った事が無い。 安物の丼の黒い液体の中から麺をすくい ずずっとすすると縮れた麺がモチモチとして旨い。 スープも意外にも味が深く 初めて食べたのにどこか郷愁を感じた。 「旨いですね。」 俺がそう言うと楓は嬉しそうにコクンと頷く。 のりで麺を巻きながらずるずる食べる楓の 真似をして同じことをしてみたり。 ラーメンにまでコショウを山ほど入れようとする 楓を慌てて止めたり。 飯を食って楽しいと思うのも楓が初めてだ。
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