喜び

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楽しそうな俺たちを店の人たちが 嬉しそうに眺めている。 「楓ちゃんが誰かとご飯食べてるとこ 初めて見たねぇ。」 カウンターの中からそう声がかかると 楓は恥ずかしそうに肩をすくめた。 そうなのか。 楓もいつも一人だったのかもしれない。 「・・家のことがあって。 あんまり遊んだり出来なかったんです。。 学費は出してもらえたのでそれ以外は自分で 何とかしてたのもあって。。」 楓が大学生の頃はもうあの父親は 家には寄り付かなかったのだろう。 母親が働いてローンを払っていたと聞いていたし きっと裕福ではなかったと推測する。 店を見渡し 楓はそれでもにこやかに 「でも。この街での生活は楽しかったです。 結局 警察に入りましたけど  大学では勉強したいことが出来たし。。」 「何を勉強していたんですか?」 俺は組の将来の為 迷う事なく法学部に入った。 学生時代から元と事業を立ち上げ 勉強と事業だけをしていた為 サークルだなんだの大学生活というのは 送っていない。 楓はクスリと笑う。  「農学部です。」 ああ。なるほど。 すぐにつなぎを着た楓が目に浮かぶ。 確かに楓にはぴったりだ。 だが理系だとは正直思っていなかった。 「品質改良とか病気に強い野菜や 果物を作る為の研究とか。。 あ。もちろん農作業もやりました。 。。好きで。頑張って毎日手をかけたものが 実るのって嬉しくて。。」 店の女性が どうぞ。と言って 烏龍茶を置いてくれ 俺たちの話が聞こえたのか まるで自分の息子の自慢をするように 「楓ちゃん。すごかったのよ~ なんかね。研究が賞取ったんだよね?」と言う。 昔の事ですから。。と恥ずかしそうに俯く  楓を見ていると 本当に好きだったんだなと感じた。 今でもコツコツと積み重ねていく 楓の芯はきっとこういう所にある。 ただ。。楓の声に少し哀しみが籠る。 「結局 採用試験を受けて警察官になりました。 たまたま運良く刑事になれましたけど。。」 本当は違う道に行きたかったのだろう。 だがそうしなければいけないと 楓はその時思い 夢を諦めたのか。
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