喜び

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楓はラーメンの汁をぐーっと飲み干し ほっと息を吐く。 「・・こういう話するの初めてですね。」 そう言ってにこりと微笑んだ。 そうだな。 ずっと一緒に居てもまだまだ知らない事がある。 「そういえば 言ってませんでしたが 今度 うちのマンションの屋上上がってみますか? あそこもうちの区画なので好きに使えます。 ベランダから上がれるから 今度 苗買ってきてプランターに植えたらいい。 俺は全く何も出来ませんけど。」 そう言って舌を出すと楓はくすくす笑い出し 「ホントですか。。そっか。。そうですね。。 そうしたら高嶺さんに作ったもの 食べさせられます。」 いいな。。何にしようかな。。と 早速考え始める楓に 「ニンジン以外だったらいいです。」と牽制すると 楓は珍しく意地悪に瞳を輝かせ 「一番にニンジン植えます。。」と笑った。 楓と一緒に居ると自分が極道の世界に 身を置いていることを忘れる。 温かく緩やかに時間が流れ 安心し 普通でいる事が何よりも 尊いもののような気がしてならない。 「今度。。餃子も手作りしますね。 高嶺さん。。気に入ったみたいだし。」 そうだ。 自分でもびっくりしたが旨かった。 まあ。楓と一緒なら何を食っても旨いのもある。 こんな喜びもあると楓が教えてくれた。 「なら。お礼に俺は六法全書でも 読み上げましょうか。」 父親の事があった時 少し専門的な話をしたら楓はあんぐりと 口を開け頭の上に山ほどハテナを浮かばせて 「・・すいません。。わかりません。」と 珍しく早々にギブアップしていた。 慌てて楓はブンブンと首を振り 「・・・無理です。。」と眉を下げた。 その顔があんまり可愛らしく 帰ったら絶対にやってやろう。 逃げる楓を追いかけ回すのもきっと楽しい。 俺が企んだことが分かったのか 楓は顔をしかめ もう一度  ブンブンと首を激しく振った。
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