喜び

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「そう。。これが欲しいんだろ。」 白い肌をした男は 欲しい・・欲しい・・と腰を振る。 「薬ももっとあげるよ。」 お願い・・お願い・・と懇願する。 薬欲しさに身体は震え 汗が全身から吹き出している。 「だったら言う事を聞け。 ちゃんと出来たらこれも薬もあげる。」 欲しがる目の前の穴にあてがうだけで 入れずに焦らす。 ああ・・いや・・いや・・ 今・・ちょうだい・・ 狂ったように欲しがる男の耳に 口を近づけ 「言う事を聞いたらね。」と言う。 その身体をぼんと突き飛ばし 服を着替えて部屋を出る。 後ろから狂ったような叫び声を聞きながら ニヤリとその口元には笑みが浮かんでいた。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 雨が降っていた。 高嶺はその夜 元とは別行動で 打ち合わせを済ませた後  駐車場に停めていた車まで歩いていた。 今日はこれで終わりだ。 元には電話で報告をし 明日書類を作って本契約まで 持っていけそうだと伝えた。 元は今日 本家で辰雄の手伝いをしている。 そのまま敷地内の家に帰るだけだった。 シマの騒ぎはあれから無くなった。 未だに見回りは続けさせているが 平穏が戻りつつある。 楓にも今から帰るとLINEを入れた。 久しぶりに楓の飯が食える。 相変わらず聞き込みには出ているが 必ず他の刑事と一緒だと聞いているし 最近つけられているような事もなさそうだ。 気のせいだったのかもしれない。 油断は出来ないが ホッとする。 これ以上楓に傷ついてほしくない。 そうだ。この間 剛と行ったカフェは この近くだ。 まだ時間も早いしやっているだろう。 ケーキを買って帰ってやるか。。 そう思い 立ち止まり 方向を変えようとした時 目の前から若い男がぶつかってきた。 すいません。。と言う声が聞こえ ぐっと脇腹に痛みが走る。 刃物が刺さり ダラダラと血が流れ始めた。 誰だ。 悪意も殺意も感じなかった。 ただ淡々と刃物を突き刺した若い男の顔を見る。 手は震え 体も小刻みに震えていた。 傘が落ち 膝から足が折れ そのままコンクリートに崩れ落ちる。 高嶺は雨に打ち付けられながら 冷たいコンクリートに横たわり 携帯のボタンを押して 両手で刃物を押さえる。 指の間からだらだらと血を流しながら ゆっくりと意識を飛ばした。 「きゃぁ!!」 女性がその場を通りかかり 倒れている高嶺を見て叫び声をあげる。 瞑った目の中で楓の笑顔が浮かんで消えた。
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