温もり

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別室を用意し まだうーんと言いながら額にタオルを乗せ ひっくり返っている矢野の側で コイツ酒全くダメで飲んだら こうなっちゃうんだよ。。と言う 景から矢野の妹の話を聞いた。 「急に家に帰らなくなったんだって。妹さん。 なんの前触れも無くて 家族の誰も理由がわからなかったらしい。 悪い連中と付き合ってるって聞いて 毎日毎日探し回ったみたいだ。 少しの手がかりにしがみついて じーっとその場で待ったり どこかで見かけたと聞けば そこに行って 妹さんが現れるのを ひたすら待ってたみたい。。」 妹は結局見つからず それでも必死に探している時に 遺体で見つかったと連絡が入った。 「ヤク漬けにされて 何人かに マワされたみたいで。 死体からは複数の精液と指紋が出て 何人か逮捕されたんだけど 合意かどうかなんて 証明出来ないよな。 結局わからずじまいで 薬の過剰摂取による 心臓麻痺で片付けられた。 逮捕された連中も短い刑期で出てきた奴も いるって聞いてる。」 さゆりの性的暴行の話に心を痛めていた 矢野の顔が思い浮かぶ。 遺族は聞きたくない。 そんな話。と身を持って感じていたのだろう。 コイツの可哀想なのはさ。 景は矢野を眺めながら言う。 「犯人より自分を責めてるんだ。 何も分からず そんな連中のもとに行かせた 自分を。家族を憎んでる。 俺みたいに犯人を捕まえて。。って 思える方が気が楽かもしれない。 犯人はいっぱい逮捕されたのに 誰が犯人かわからない。 憎みようにも憎めないのかもな。 だから自分を憎んでる。 俺がバカだから。。ってさ。」 景はふっとため息をついた。 「だからマル暴になって一人でも 妹さんみたいな人が出ないようにって 毎日必死に歩き回ってる。 ヤクを無くすことは出来なくても 出来ることをやろうとしてるんだ。」 わかるよな。 景の綺麗な瞳は俺にそう言っている。 バカなのは俺だ。 コクリと頷く俺に 哀しい微笑みを寄越し 俺たちはその後 何も話さなかった。
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