温もり

6/9

5984人が本棚に入れています
本棚に追加
/802ページ
お前の責任だから送って行け ご家族には連絡しとくと 景に言われてタクシーで矢野を送る事になった。 未だに意識が混沌としている 矢野を背負い 店の前で待っていた タクシーに乗せる。 じゃあ。と頭を下げると 高嶺。と景に呼ばれた。 「矢野も孤独なんだ。」 ずっと孤独に耐え 今 幸せを手にしたこの人は 口にはしないが 俺ならそれが どういう事かわかるだろ?と聞いている。 景を見てきた俺なら。と。 分かってやれるだろうか。 正直自信がない。 自分の苛々をただ押し付けこれだけ傷つけたのだ。 普段の俺なら絶対にしない。 だが何故か矢野にはいつも煽られる。 返事の出来ない俺を見て 景は ニコッと笑い肩をポンっと叩くと 俺をタクシーに押し込んだ。 着いた先は団地に毛が生えた程度の マンションだった。 矢野を背負い 階段を上がる。 軽い。男とは思えない。 この小さい体で毎日歩き回り 寒さに耐え 犯人を追っている。 それを俺はただ無駄だと切り捨てた。 ピンポンとベルを鳴らすと 矢野の母親が出てきて まぁ。本当にすいません。。と言う。 その顔は慢性的な疲れからか 全く覇気が感じられない。 頭を下げ 重いですから。 とそのまま上がらせてもらう。 中に入ると何故か空気が重く感じる。 灯りがついているのに足りていない感じだ。 矢野の部屋は廊下の一番奥で ドアを開けると ベッドに勉強机しかない シンプルな部屋だった。 とりあえずベッドの掛け布団を 片手で剥ぎ 矢野を下ろして横にして 布団を上からかける。 この部屋も空気が重い。 やはり妹の死はこの家庭を暗くしているのか。 つい実家を思い返す。 うちもそうだ。 本当に気が滅入る。 だから出れて正直嬉しかった。 庄司に悪いと思いながら 俺は早くあの場から逃げ出したかった。 コイツは耐えているのだ。 じっと一人で。
/802ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5984人が本棚に入れています
本棚に追加