温もり

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部屋を出ようとすると 小さい声で高嶺さん。と呼び止められた。 矢野が上半身を起こしこちらを見ている。 俺はベッドに近づき 「大丈夫ですか。」と聞いた。 顔色はだいぶ戻っている。 矢野はコクンと頷き あの。。すいませんでした。。と 言いかけるのを右手で制した。 ベッドに腰掛けるとギシっと軋む。 俺の体なら三日で壊れそうだ。 項垂れて俯くすまなそうな矢野の顔を見る。 せっかくのお祝いだったのに。。と 思っているのだろう。 そういう事はわかるが それ以外を 分かってやれる自信はない。 が、間違っていた事は謝らなければならない。 「すいませんでした。 妹さんの事 知らなかったので。」 俺の言葉に目を丸くし 矢野はブンブンと首を振る。 「俺が悪いんです。 高嶺さんの言う通りです。 じっと二週間も待ってて 何にも成果が 挙げられなかったら普通違う事考えますよね。 ホント俺バカだから。 何にも思いつかなくて。。」 ふう。と息を吐いて 天井を見上げる。 まだ少し酒が残っているのか 普段のおどおどした感じがない。 本当はこれが真の矢野なのかもしれない。 「わかんないんです。何にも。 人より気づくことも遅いし 何にも気づかない事もあるし。 高嶺さんみたいに頭が良くて 行動力もあって 人を助けられるような人が 兄貴だったら 留美もきっと。。」 天井を見上げていた矢野の瞳から 涙がポトンと落ちた。 やべ。また泣いてる。すいません。 情けないな。もう。ホントに俺は。 泣いたってしょうがないのに。。 昔から泣き虫で。。 すいません。。すいません。 涙をこぼしながら謝る矢野を 俺は思わず抱きしめた。 自分で理由がわからない行動をするのは 生まれて初めてだ。 小さい身体が俺の腕の中で硬直する。 しばらくそうしていると この状況に少し開き直ったのか 「・・さっきおぶってくれてたんですよね。 なんか湯たんぽみたいで気持ち良くて。」 と矢野が言う。 「人の背中を湯たんぽ呼ばわりですか。」 俺が不満げな声を出すと 珍しくクスっと笑い 「いつもなんかどっか寒いので嬉しかったです。」 と小さい声で答え 顔を埋める。 心が冷えているのだ。 俺のように。 あったかい。 矢野はそう言って声を殺し 俺に包まれたまま 静かに泣き出した。
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