離さない

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へ。。と固まったままの楓を残し キッチンへ行き 紙袋を持ってきて リビングに戻り ソファーに座る楓の真正面に ドッカリと腰を下ろした。 「・・どうしたんですか。。」 不思議そうに首を傾ける楓の質問には答えず 紙袋から 握りを二つ出し 両手で持つ。 「昆布とおかか。どっちがいいですか。」 楓はまたポカンとし え。。とそれらを凝視する。 その握りは生まれて初めて俺が作ったものだ。 鬼頭に作り方を聞き なんとか米を炊いて よくわからない中 どうにか形を整える。 だが どうやっても三角にはならず 手がデカイからか 楓が作るデカイ握りより 更に一回りデカイまん丸の塊だ。 海苔の巻き方さえわからず ペタペタと貼り付け なんとか出来上がったそれは 我ながら不恰好でびっくりする。 今まで大抵のことを何でも出来た。 が、目の前の見たこともないような代物に 俺にも出来ない事があったな。と 一人でキッチンで苦笑した。 楓はキョロキョロと目の前の 海苔まみれの塊を二つ見比べて聞いた。 「・・高嶺さんが。作ったんですか。。」 「そうです。まあ。握りには 見えないでしょうけど。」 と顔をしかめてみせると 楓は首をコクンと横に傾げ 握りを見ながら 何かを考える。 ぽつんと言葉を吐き出した。 「・・砲丸みたいです。。」 確かに。 「重さもそれくらいあるかもしれませんね。」 そう言って投げる真似をすると 楓は表情を緩める。 あまりにびっくりしたのか 青白かった肌も少し色が戻り 大きな瞳にも力が宿ってきたように見える。 きちんと向き合わねばならない。 今の楓の辛さを思えば 時間の経過が必要かもしれない。 だが 俺たちは一緒にいる。 支え合い 寄り添い わかりあうために 俺たちは一緒にいるのだ。
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