離さない

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楓は懸命にデカイ砲丸おにぎりを食べきると ふぅと息をついてソファーにもたれた。 ずっと食欲が無く あまり飯も食わなかったのに かなりの量の米を食い 腹を撫でながら 少し苦しそうに 俺を見て 「美味しかったです。。高嶺さん。 ありがとうございます。」と微笑む。 旨いわけはない。 自分も食ったが 握りしめ過ぎて硬く 米同士が潰れてしまっていたし 塩気が無く 中身の量も米との割合が合ってない。 それでも自分の為に懸命に俺が 格闘する絵でも想像したのか 楓は嬉しそうにくすりと笑いながら 握りを持ち 食べてくれた。 それにしてもすごい量だった。 俺も腹がパンパンになり 楓の横でソファーにもたれ 足を投げ出す。 隣で 茶の湯呑みを両手で抱え ふうふうと 息を吹きかけ冷ましている楓を見る。 ああ。そうだ。 「楓。」 一口茶を飲み 顔を上げる。 「あの小屋はもうありません。 全部撤去しました。」 俺があっさりそう言うと 楓は湯呑みを 持ったまま へ。。とポカンと口を開く。 「あの山も持ち主から買い取ってあり うちの組の事業として管理することに しました。意外と利用価値がありそうで うちにそっちが強い奴がいるので 任せてあります。それから。。」 「ちょ。。ちょっと待って下さい。」 湯呑みを置き 首を傾ける。 「な。。なんで・・。」 なんで。その質問の意図がわからない。 簡単な話だ。 「楓の思い出を取り戻す為です。」 あの忌まわしい小屋をそのままになど しておけない。 楓が 母や祖父母に会いに行くたび 思い出すなど。あり得ない。 それに以前一緒に祖父母の家に泊まった時 楓はまだあの事を思い出しておらず 楽しそうに夏休み裏山で遊んだと 言っていたではないか。 それを何故失わなきゃならない。 楓は何も悪くない。 ならば取り戻すまでだ。 俺がそう言うと 楓はさらに口をポカンと開け 「意味がわからない。」 首をふるふると横に振った。 その声音はまるで俺だった。
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