離さない

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季節はもう秋を過ぎていこうとしているのに ポカポカと暖かい太陽の日差しに温められた ブランケットに包まれ また居眠りをしていた 俺が気配を感じて ゆっくり目を覚ますと 帽子を被った楓の笑顔が目に映る。 「あーん。」と言われ 寝ぼけながらも口を開けると 何か野菜を放り込まれる。 シャクシャクと噛むと甘く 柔らかくて 瑞々しい。 食べたことの無い感覚に 噛みながら 「・・何ですか。」と問うと 楓は悪戯っ子のような笑みを浮かべ 手に持っていた小さいオレンジ色の物体を見せる。 ニンジン。。。 思わず口から出そうとするが 楓の手のひらに塞がれ ゴクンと飲み込んでしまう。 「甘くないですか?」 確かに 甘くフルーツのようだった。 ゴリゴリと固くもなく 柔らかくて 悔しいが旨い。 それでもだまし討ちは酷い。 楓を捕まえ 引き寄せて両腕で抱え込む。 また鼻先にニンジンをぶら下げられた。 俺は馬じゃない。 途端に 顔をしかめると 楓はくすくすと笑いだした。 「高嶺さん。。子供みたいです。」 楓は笑いが止まらない。 その口を己で塞ぎ 舌を差し入れると 途端に ん。。と喉を鳴らす。 その甘い響きを感じながら 楓の背中に手を這わすと 楓は無理やり口を引っぺがし 「・・ここは駄目です。」と睨みつけた。 身体を起こし 身を離そうとする楓を またグッと引き寄せ 抱え込む。 「もう。。これじゃキリが無いです。」 楓はその可愛い唇を尖らせた。 しょうがない。 離したくないものは離したくない。 「絶対に離しません。」 頑なな俺に 楓は はあ。とため息をつくと 少し何かを考えてから 急にその両腕を小さい身体いっぱい広げて 逆に俺の頭を抱えこみ ぎゅっと力を入れて抱きしめる。 俺の顔は楓の薄い胸にむぎゅっと押し付けられ 楓は くすくす笑いながら まるで子供にするかのように 小さい手のひらで俺の後頭部を撫で 「離しません。」と そっと耳元で囁いた。 抱き合い笑い合う俺たちを 夕日が オレンジ色に染め ひゅっと通り過ぎていく風は すでに 冬の訪れを知らせていた。 story 1 the END
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