寄り添う

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正確には一日と21時間だった。 高嶺は矢野が立っている場所に赴き その冷え切った手を掴む。 「・・た・・高嶺さん!」 びっくりして珍しく大きな声を出す 矢野を完全に無視し どんどんと引っ張って そのまま近くのホテルの一室に連れ込んだ。 「早く風呂入って下さい。」 え?と驚いて立ち尽くし また口を開けている矢野を引きずり バスルームに放り込む。 「風邪引くから早く!」 俺の剣幕に慄き 矢野はそのまま そっとバスルームのドアを閉めた。 ホテルに男を引っ張り込むのは初めてだ。 勿論ナニをしようというわけではない。 残念ながら今日は朝から雨だった。 張り込みに傘を差す馬鹿はいない。 目立ってしょうがないからだ。 安物のカッパを着て 矢野は震えながら立っていた。 あんな小さい体で長時間雨に打たれて 風邪をひかない奴などいない。 案の定 くしゅんっとクシャミをしている。 俺は着替えを持ち 開けますよと言って ドアを開け 着替えを洗面台の上に置く。 スーツとカッパをひったくり ホテルのクリーニングに大至急頼んで ついでにルームサービスを頼む。 暖かいスープとサンドウィッチが 到着した頃 矢野は俺が用意した ジャージを着て そろそろとバスルームから 出てきた。 こっち来てくださいと言うと またそろそろと近づいてくる。 そりゃ何がなんだかわからないのだろう。 「食べて下さい。」と言って テーブルの椅子を引く。 カップにティーバッグを入れ 備え付けのポットからお湯を注ぎ しばし待ってからティーバッグを捨て ミルクと砂糖を用意して 矢野の目の前に置く。 目をまん丸くしながら 食べ物には手をつけず 俺が入れた紅茶を両手で持ち そっと口をつけた。 矢野は絶対コーヒーが嫌いだ。 いつも無理して飲んでいる風に俺には見えていた。 嫌だと言えばいいのに コイツは言わない。 せっかく入れてもらったから。。と 考えるのだろう。 ほっ。と小さく息を吐き あったかい。と一言呟くと 「ありがとうございます。」と笑顔を見せた。
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