寄り添う

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「矢野さん。今日はここに泊まって下さい。」 俺がそう言うと いやいやと矢野は首を振る。 「高嶺さんが怒るの わかるんですけど 俺はあれしか出来・・」 「政友会のヤクを捌いてる奴 見つけました。」 遮るようにそう重ねて言うと 矢野はまた目を丸くして口を開ける。 そのバカ顔を見るのが だんだん楽しくなってきた。 「明日迎えにきますから。 暖かくして 風邪悪化させないようにして下さい。」 俺の言葉に でも。。と不安そうに 辺りを見回す。 タバコの火を消し 矢野を正面から見据える。 「家に居るの辛くないですか。」 俺がそう聞くと 矢野は急に無表情になった。 こういう顔もするのか。 この数時間で知らないことが更に増える。 「俺は居たくない。 俺の父親の話は坂田さんから聞いてますか。 俺はひどい子供だ。親を見捨てて家を出て。」 知っている事をわかって聞いている。 坂田が言わない訳はない。 極道の素性を調べないマル暴はいない。 ヤクザと一緒だ。 坂田は昔からうちの組と深く関わりがあり それを矢野に伝授している筈だ。 俺はハナから甘く見てコイツの 妹の事をきちんと調べなかった。 大バカだったと思っている。 コクンと頷き 矢野は でも。。と口を開く。 「高嶺さんはしょうがないと思います。 三代目さんのサポートをしなくちゃ いけないんだし。」 それに。。 矢野は俺に暖かい瞳を向けた。 「お父さんは生きてるじゃないですか。 子供は好きにすればいいと思います。 そうする権利があります。 うちは親を残して子供が死にました。 親不孝をしたのだから 代わりがいないと。。」 俺には全く無い考え方だった。
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