距離

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楓がヤクの取引の実態を掴むため また潜入捜査に入ると仁から聞いた。 景が楓は絶対に俺に言わないと思い 仁を通して俺に伝達しようとしたらしい。 「いいから帰れ。」 仁にそう言われたが首を振り 「そういう訳にはいきません。」 と言うと仁は困り果て 「高嶺。そんなに頑なになるな。」と言われた。 思わずカチンと頭に血が上る。 「じゃあ。どうすればいいんですか。 今のこの状態であなたを守る人間が どこにいるとでも。教えて下さい。」 こんな風に言い返してくるとは 思ってもみなかったのだろう。 仁は目を見開いて驚き 下を向いた。 「・・高嶺。ごめんな。。ごめん。」 仁にそう謝らせて はっと気づく。 俺は一体 何を言っている。 仁が悪いわけではないのに 余裕が無く つい責め立てるように 言葉を吐き出した。 「・・すいません。」 謝る俺に 仁はいいよ。と首を振り ほっと息を吐き出すと 「とにかく楓ちゃんと話せ。 時間は遅くとも電話しろよ。 話さないと先には進まないぞ。」 そう言って車を降り マンションへと入っていった。 その姿を見送り車をスタートさせ 自分の借りているマンションへと向かう。 既に時計は一時半を指している。 とっくに寝ている時間だろう。 それでもマンションから少し離れた 駐車場に車を停め マンションに向かう道すがら 逸る気持ちを押さえられず 携帯を取り出して楓の番号を表示し ボタンを押した。 ツーコールで相手が出る。 眠そうな声でもしもし・・と聞こえてきた。 一か月ぶりの楓の声だった。 「寝てましたよね。」 楓は少し黙ってから 「大丈夫です。」とだけ答える。 その声に微妙な緊張を感じた。 まるで知らない人に電話をかけたような 感覚にさえ陥る。 怒っているのか。 俺がずっと連絡もしなかったから。 なかなかその先の言葉が見つからない。 楓と距離を感じる。 物理的な物だけではない 気持ちの距離を感じていた。
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